海鳴りにあずけておいてね






ざぁん、ざぁんと穏やかな波が打ち寄せる。
靴の中に砂が入ってくるけれど、僕は気にすることなく歩く。
生ぬるい空気。黒い海。
何でだろう、いつもなら気持ち悪くなるはずなのに今は心地いい。
空はどんよりと雲に閉ざされている。
この場所と違って僕の心は空っぽだった。
楽しいとか嬉しいとかもない代わりに辛いとか苦しいもない。
ただ僕は海に向かっていた。
塩水に靴を浸して、水平線へ。
だんだん水が深くなっていく。
靴を浸していた塩水はもう胸まで上がっていた。
このまま歩いていくと溺れてしまう。
けれど僕はやめる気はなかった。

遠くで海鳴りがする。
この塩水は誰かの涙なのだろうか。
この海鳴りは誰かの嘆きなのだろうか



海鳴りにあずけておいてね





僕の恨みも、嘆きもきっとあの海の向こうにある。

[title/徒野]

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